「ねえ、ちょっと相談があるんだけど」
居酒屋のカウンター席で、私は隣に座る大学時代からの友人、拓也に声をかけた。最近、職場の先輩がやたらと私の愚痴を聞いてくれるのだ。仕事の不満、人間関係のモヤモヤ、何を話しても「うんうん」と頷いて聞いてくれる。正直、ちょっと気になっている。
「また恋愛相談?」拓也はビールを一口飲んで笑った。
「恋愛かどうかも分からないから相談してるんでしょ。職場の先輩がさ、すごく愚痴聞いてくれるの。これって脈ありなのかな」
拓也は少し考えてから、意外なことを言った。
「正直に言っていい?男が女の愚痴を聞くのって、大体は下心があるよ」
「え、そんなハッキリ言う?」
「だって事実だもん。興味ない女の愚痴なんて、正直聞きたくないんだよ。疲れるし、時間かかるし。それでも聞くってことは、何かしらの見返りを期待してるってこと」
私は少しショックを受けた。あの先輩の優しさは、打算だったのだろうか。
「でもさ、純粋に『力になりたい』って思ってる可能性もあるんじゃないの?」
「それも下心の一種だよ。『力になりたい』って思うのは、その女性に好意があるからでしょ。好意がなかったら、そもそも力になりたいとも思わない」
「じゃあ、好意があるってことじゃん」
「好意はあるよ、多分。でも『好意がある=付き合いたい』とは限らないんだよな」
拓也の言葉に、私は首をかしげた。
「どういうこと?」
「男にもいろんなタイプがいるんだよ。本気で付き合いたいと思って愚痴を聞く奴もいれば、『いい人』って思われたいだけの奴もいる。あと、ぶっちゃけ『愚痴聞いてあげたんだから、食事くらい付き合ってよ』って下心丸出しの奴もいる」
「最悪じゃん、それ」
「最悪だよ。でも、そういう奴も実際いるんだ。だから女の人は見極めないといけない」
私はため息をついた。男の本音って、本当に分かりにくい。
「でもね、拓也。女からすると、愚痴を聞いてくれる男性ってすごくありがたいの。女同士だと『分かる分かる、私もさー』って自分の話にすり替わっちゃうことも多いし。黙って聞いてくれる存在って貴重なんだよ」
「それは分かるよ。でもさ、その『ありがたい』って気持ちを利用しようとする男もいるってこと」
「利用って言い方、ひどくない?」
「ひどいかもしれないけど、事実だよ。男って、女の人が弱ってる時に優しくすると好感度が上がるって知ってるんだ。だから意図的にそういう場面を作ろうとする奴もいる」
私は黙った。確かに、あの先輩は私が落ち込んでいる時に限って声をかけてくる気がする。
「じゃあ、本当に純粋な気持ちで愚痴を聞いてくれる男性はいないの?」
「いないとは言わないよ。でも、男が女の愚痴を聞くのって、結構エネルギー使うんだ。問題解決したいのに『ただ聞いてほしいだけ』って言われるし、共感を示さないと怒られるし。それでも聞くってことは、やっぱり何かしらの動機があるってこと」
「動機って……好意じゃダメなの?」
「好意でいいんだよ。ただ、その好意が『恋愛感情』なのか『人として好き』なのか『下心』なのかは、本人にしか分からない。いや、本人でも分かってないこともある」
私は焼き鳥を一口食べながら考えた。
「ねえ、拓也は女友達の愚痴、聞く?」
「聞くよ、たまにね」
「それって下心あるの?」
拓也は少し困った顔をした。
「正直に言うと、ゼロとは言えない。でも、下心っていうより『頼られてる感じが嬉しい』っていう方が近いかな。俺のことを信頼して弱いところを見せてくれてるんだって思うと、なんか満たされるんだよ」
「それって自己満足じゃん」
「自己満足だよ。でも、それの何が悪い?相手は愚痴を聞いてもらえてスッキリする、俺は頼られて嬉しい。Win-Winじゃん」
「確かにそうかもしれないけど……でもそれって、女を利用してることにならない?」
「利用って言葉が引っかかるんだよな。俺たち男からすると、愚痴を聞くのは『投資』みたいなもんなんだ。時間とエネルギーを使って相手の話を聞く。その見返りとして、信頼関係が深まったり、好意を持ってもらえたりする。それって普通のコミュニケーションじゃないの?」
私は反論した。
「でも、女からすると、愚痴を聞いてもらうことに『見返り』を求められるのは嫌なの。純粋に心配してくれてるって思いたいじゃん」
「それは女の人の勝手な願望じゃない?男だって人間だから、何かしらの動機がないと行動しないんだよ。『純粋な優しさ』なんて、そうそうないって」
「冷たくない?その考え方」
「冷たいかもしれないけど、現実的だよ。むしろ俺は女の人にもっと現実を見てほしいと思う。『愚痴を聞いてくれる=いい人』って単純に考えすぎじゃない?」
私はムッとした。でも、拓也の言葉には一理あるとも思った。
「じゃあ、どうやって見極めればいいの?本当に私のことを思って聞いてくれてるのか、下心なのか」
「いくつかポイントがあるよ。まず、愚痴を聞いた後に何か要求してくるかどうか。『今度食事行こうよ』とか『お礼してよ』とか言ってきたら、ほぼ下心。純粋に支えたいと思ってる男は、見返りを求めない」
「なるほど」
「あと、愚痴以外の時も関わろうとするかどうか。愚痴の時だけ優しくて、普段は素っ気ない奴は怪しい。本当に好意がある男は、愚痴じゃない時も連絡してくるし、一緒にいたがる」
「それは分かりやすいかも」
「最後に、長期的に聞いてくれるかどうか。最初だけ優しくて、だんだん面倒くさそうにする奴は、本気じゃない。本当に支えたいと思ってる男は、何回愚痴を聞いても態度が変わらない」
私はメモを取りたくなった。
「でもね、拓也。女からすると、そういう『見極め』をしなきゃいけない時点でしんどいの。純粋に話を聞いてほしいだけなのに、相手の本心を探らなきゃいけないって、疲れるじゃん」
「それは分かるよ。でもさ、男だって疲れてるんだよ。愚痴を聞くのって、本当にエネルギー使うんだ。解決策を言いたいのに『聞いてほしいだけ』って言われる。共感してるのに『本当に分かってる?』って疑われる。どうすればいいの?って思うことも多いんだよ」
「それは……ごめん、考えたことなかった」
「だから、お互い様なんだよ。女の人は男の本心が分からなくて不安、男の人は女の愚痴にどう対応すればいいか分からなくて不安。どっちも正解が分からないまま、手探りでコミュニケーションしてるんだ」
私は少し反省した。愚痴を聞いてもらうことばかり考えていて、聞く側の気持ちを考えていなかった。
「ねえ、拓也。私、愚痴言いすぎてる?」
「誰に?」
「その先輩に。毎日みたいに愚痴聞いてもらってるんだけど」
「毎日はやばいよ。どんなに好意があっても、毎日愚痴を聞かされたら疲れる。俺だったら距離置くかも」
「えー、そうなの?」
「そうだよ。愚痴を聞いてくれるからって、無限に聞いてくれるわけじゃないんだ。相手にも限界がある。それを超えると、好意が負担に変わるんだよ」
私はハッとした。もしかしたら、先輩はもう限界かもしれない。
「じゃあ、どうすればいい?」
「たまには先輩の話も聞いてあげなよ。愚痴を聞いてもらうだけじゃなくて、相手のことも気にかける。そうすれば、一方的な関係じゃなくなるから」
「確かに……私、先輩のこと全然聞いてなかったかも」
「それだよ。愚痴を聞いてくれる人って、自分の話はあまりしないことが多いんだ。でも、心の中では『俺の話も聞いてほしい』って思ってることもある。それに気づいてあげられるかどうかが、関係を深めるポイントかもね」
私は深く頷いた。愚痴を聞いてもらうことばかり考えていたけど、相手の気持ちを考えることも大切なんだ。
「ありがとう、拓也。なんか、いろいろ分かった気がする」
「どういたしまして。でもさ、一つだけ言っておくと」
「何?」
「俺がこうやってお前の相談に乗ってるのも、完全に純粋な気持ちってわけじゃないからね」
「え?」
拓也はニヤリと笑った。
「冗談だよ。でも、男の本音なんて、本人にも分からないことが多いんだ。だから、あんまり深く考えすぎないで、自然に付き合っていけばいいんじゃない?」
私は笑った。結局、答えは出なかったけど、少し気持ちが軽くなった。
結論として、愚痴を聞いてくれる男性の心理について「どちらが正しいか」と問われれば、これもまた「どちらの視点も正しい」というのが答えになる。男性側の「愚痴を聞くのはエネルギーが必要で、何かしらの動機がある」という主張は事実だし、女性側の「純粋に聞いてほしい、見返りを求められたくない」という気持ちも理解できる。重要なのは、愚痴を聞いてもらう側が「聞いてもらって当然」と思わないこと、そして聞く側が「聞いてあげたんだから」と見返りを求めないこと。お互いが相手の立場を想像し、感謝と思いやりを持って接することができれば、愚痴を通じた関係は恋愛にも友情にも、良い方向に発展していくはずだ。
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